骨折は早く治すことができます。骨折の発生リスクを減らすこともできます。骨折すると運動が制限され、筋力低下、関節硬化、筋膜硬縮などが起こり、運動機能を全体的に低下させます。
治癒後のリハビリ期間は、治療期間の3倍以上かかるので、1日でも早い回復が大事です。
骨折を早く治す2つのポイント
骨折の治療には自然治癒力が大切です。骨折の早期回復には、自然治癒力を高めて骨折の周辺細胞の活性化が必要です。そのため「外部からの刺激」と「内部からの栄養」の2つのアプローチが効果的です。
外部からの刺激治療
外部からの刺激で、細胞を活性化させます。方法としては超音波治療、低周波治療器、温熱療法、鍼灸などがあります。酸素カプセルの活用も期待されますが、まだエビデンスが少ないです。
内部からの栄養療法
栄養で修復を活性化させることができます。「骨の原料になる栄養」と「代謝を促進させる栄養」のアプローチが必要です。
骨の原料になる栄養
「骨の栄養=カルシウム」ではありません。
カルシウムの定着は、骨たんぱく質の仕事です。骨粗鬆症の場合、骨量の3割を占める骨たんぱく質の代謝低下で、カルシウム量が低下する症状です。
骨タンパク質は「Ⅰ型コラーゲン」という線維状たんぱく質で、骨折時は大量に消費されるので積極的な食すことが重要です。
代謝を促進させる栄養
ミネラルやビタミンが不足すると、たんぱく質が合成できません。平成29年の厚労省が行った国民健康栄養調査によると、ビタミン・ミネラル18種類のうち16種類が不足していて、うち5種類が平均4割以上欠乏しています。
アスリートは、エネルギー代謝や活性酸素除去、筋損傷の修復などで、大量のビタミン・ミネラルが消費されるので、多めの摂取を心がけてください。
その上でグルタミン、アルギニン、グリシンなどのアミノ酸が効果を発揮します。
骨ができるまで
骨は「破壊」と「形成」という新陳代謝骨を繰り返しています。そこに骨折を早く治す秘密が隠されています。
骨の3層構造
骨は骨膜・緻密質・海綿質に分かれています。
「緻密質/ちみつしつ」は骨表面の硬い部分で、「海綿質/かいめんしつ」は骨内部のスポンジ状の部分です。骨膜を除いて2層構造ともいいます。
骨膜のしごと
骨全体を包む外膜「線維層」と、内膜「骨形成層」があります。外膜はコラーゲン線維と線維芽細胞で構成され、靭帯、腱、関節包と付着しています。内膜は骨芽細胞(骨をつくる細胞)を含み骨を形成します。骨膜は多くの血管と痛覚があります。
緻密質のしごと
硬い緻密質(ちみつしつ)は、骨の強度を担っています。血管を中心にバームクーヘンのような同心円柱(縦層)が何本も重なっていて、横の曲げに強い構造です。Ⅰ型コラーゲンが鉄筋の役割をして、そこにリン酸カルシウムやマグネシウムがコンクリートの役割をしています。
海綿質のしごと
骨の内部はスポンジ状(海綿)の構造です。スポンジ線維は骨梁(こつりょう/骨質ともいう)は、外部からの圧力を吸収し、弾力性と強度を与えます。海綿質成分はⅠ型コラーゲンで、不足すると骨強度や骨弾力性が低下、折れやすく治りにくくなります。
骨折が治るしくみ
骨代謝は「骨新生」や「骨リモデリング」といい、骨を分解する「破骨細胞」と、骨を形成する「骨芽細胞」の代謝システムです。
通常の骨代謝
骨代謝サイクルは、種類や年齢などで変わります。ほぼ3ヶ月ほどで作り替えられます。
まずは破骨細胞によって古骨を分解する「骨吸収」が起こります。分解物は血液中に取り込まれ、カルシウムは新たな骨代謝、筋肉収縮、情報伝達、ホルモン分泌などに再利用されます。
骨吸収の欠落部では、骨芽細胞がコラーゲンを合成、カルシウムを抱え込み「骨形成」が起こります。
*参考文献:コラーゲンが骨の質を高める!「老いない体」は骨で決まる 著者 山田豊文(青春出版)
骨折を治す骨代謝
骨折の治癒は「炎症反応」と「骨形成」に分けられます。炎症反応では患部に内出血が起こり、免疫細胞が集結します。免疫細胞は骨折で生じた骨断片や細胞組織を除去して、炎症を引き起こします。
骨形成では欠損部に免疫細胞(リンパ球/ガンマデルタT細胞)が増加し、IL-17(インターロイキン-17)を作り出します。それが幹細胞や骨芽細胞を増殖させ、コラーゲン合成を高めることで骨折を治します。
参考文献:東京大学医学部 免疫系が骨を治す~骨折治癒の仕組みを解明~
骨折を早く治す栄養!
骨折を早く治す栄養は、大きく分けて4つです。骨代謝の促進をサポートします。
- タンパク質
- ビタミン
- ミネラル
- アミノ酸
タンパク質をとる!
骨たんぱく質は「Ⅰ型コラーゲン」のことです。成人のコラーゲン合成量は5g/日といわれています。しかし骨折時は、患部での代謝が活性化するので、通常の3~5倍は必要です。
コラーゲンを食べる!
コラーゲンを食すことで、コラーゲンの合成量が増えるとされます。デュッセルドルフ大学の研究では、骨折患者に1日8gのコラーゲンを摂取させた結果、倍~3倍早く治ったと報告しています。
ビタミンをとる!
「ビタミンC」「ビタミンD」「ビタミンK」が、骨折の治癒に大きく関わります。
ビタミンC
ビタミンCは、コラーゲンの合成に必須の栄養素です。米国マウントサイナイ医科大学の研究では、ビタミンCを投与することで骨密度があがったと報告しています。ビタミンCは「骨芽細胞」と「骨化/石灰化」の2つの働きを活発化します。
ビタミンD
ビタミンDは「骨をつくるビタミン」として、破骨細胞と骨芽細胞を活性化します。ビタミンDは血中のカルシウム濃度をコントロールして、腎臓でのカルシウの再吸収促進や排出抑制をサポートします。食べ物に含まれるビタミンDが日光(紫外線)を浴びることで、活性型ビタミンDに変わり機能性を発揮します。
ビタミンK
ビタミンKはカルシウムと結合するタンパク質を活性化させ、骨形成を促進させます。骨粗鬆症の患者は血中ビタミンK濃度が低いとされます。納豆、春菊、菜花、海苔に多く含まれます。
ミネラルをとる!
ミネラルはすべての栄養素の土台となる成分で、不足するとビタミン、タンパク質、脂質、糖質の吸収や機能を低下させます。骨折の回復にはカルシウム、マグネシウム、リンなどが重要ですが、単独の過剰摂取はぜずに、総合的にミネラルを摂取してください。
カルシウムを定着させる
カルシウムはマグネシウムと「2:1」の割合で骨に定着します。マグネシウムが不足すると、カルシウムが血管や内臓に沈着するカルシウム・パラドックス(石灰化)を起こします。また骨はリン酸カルシウムで作られますが、加工食品に多く含まれるリンが多すぎると、カルシウムの腸管吸収を阻害します。
関連:【管理栄養士監修】マグネシウム不足で起こるカルシウムの悪玉化!
アミノ酸をとる!
アミノ酸はたんぱく質を合成する成分です。単独でも遊離アミノ酸として機能します。中でも免疫に関わるアミノ酸として「グルタミン」「アルギニン」「シスチン」「テアニン」「ヒスチジン」があります。
グルタミンは手術後の回復を早めるアミノ酸です。海藻、大豆食品、肉類、魚類に多く含まれます。
栄養の必要量は?
骨折を早く治すには、必要量を確保しやすいサプリメントが効果的です。コラーゲンを中心にビタミンC、総合ミネラル、総合ビタミンは必須です。食事では肉類、魚類、野菜のバランスが大事です。
- コラーゲン :6~10g
- コンドロイチンやグルコサミン :3~5g
- ビタミンC:300~500mg(サプリメントからの推奨量100mg成人男性)
- ビタミンB群:適量
- マグネシウム600~900mg(サプリメントからの推奨量340~370mg成人男性)
- マルチミネラル:バランスのとれたもの
- アミノ酸:グルタミン、アルギニン、シスチン、テアニン、ヒスチジン
リハビリをさらに短縮
リハビリ期間が長くなる原因は「筋力低下」です。ギブスなどで完全固定すると、1日で約1%の筋力が低下するとされています。
コペンハーゲン大学の研究報告書では、平均年齢23歳(±1)の男性17名の片脚を2週間ギブスで完全に固定したところ、筋力(最大自発収縮率)が28%(±6)低下したといいます。
筋力低下を防ぐ!
筋力低下を防ぐ成分として「HMBカルシウム」が注目されています。それは「筋肉合成促進」と「筋力低下抑制」という2つの作用があり、治療期間の筋力低下を抑制し、リハビリ期間を短縮してくれます。
参考文献:Clifford, T, et al., 2019, The effects of collagen peptides on muscle damage, inflammation and bone turnover following exercise; a randomized, controlled trial. Amino Acids https://doi.org/10.1007/s00726-019-02706-5. GROWING STRONGER AND HEALTHIER, ROUSSELOT.
Wieneck:E. Leistungsexplosion im Sport. iSBN978-3-89899-652-5,288 Seiten(2011)
<参考文献>厚生労働省「国民健康・栄養調査」、「コラーゲンが骨の質を高める!「老いない体」は骨で決まる」著者 山田豊文(青春出版)、「ゼラチン・コラーゲンペプチド機能性レポートvol.2~食品としての安全性と骨に及ぼす影響について~」、「ゼラチン・コラーゲンペプチド機能性レポートvol.3~コラーゲンペプチド摂取時の吸収性と骨強度について~」新田ゼラチン、「コラーゲン活性試験結果報告書」・「コラーゲンの秘密に迫る」藤本大三郎(理学博士・東京農工大学名誉教授)、「コラーゲンの理化学試験結果報告」野村義宏ら(東京農工大学)、「トレーニング効果を高める高タンパク質補助栄養とその摂取タイミング」水野眞佐夫(北海道大学大学院教育研究院人間発達科学分野教授)